サロン ド 冨山房 - Folio

2010年2月19日(金)第38回サイエンスカフェを開催いたしました。

第38回 2月19日(金) 18:30〜20:30
「第四の生物 ヒト」
星元紀 氏 
(放送大学教授、東工大名誉教授)

 「第四の生物 ヒト」という心惹きつけられる題で、発生生物学者の星元紀さんがお話しなさるとあって、今回もたくさんの方が集まって下さった。コーディネータの室伏きみ子さんの「生物学分野の重鎮で、また御身の大きさにふさわしく、お考えのスケールも大きい方」というご紹介でお話が始まった。

 星さんの語りはたちまち熱をおびた。「私たちは地球型の生物しか知らない。宇宙にはまだ見ぬ生命があると私は信じているが、生物学/生命科学が、生命あるものたち(生命体・生物)とその営み(生命現象)の科学であるならば、地球型生物科学は「一般」生物科学たりうるのか?」と問いかける。なるほど星さんの命へのまなざしは、受精卵1個を見つめつつ、そして根源的な生命現象を解き明かそうとして宇宙へと広がるのだ。そして地球上に、現在生きている生物の総質量は、地球全体の100億分の一だという。星さんはこの生物の世界を「人一人で考えれば、まつ毛一本にも満たない微々たる世界」と例える。けれど、その「まつ毛一本の世界が驚くほど多様性に満ちている」のだ。
明治神宮の森は、東京という温帯地方の巨大都市に、計画されて作られたわずか百年ほどの人工の森だが、横浜国大のグループがある区画/深さを決めて土を掘り上げて、その中に住む動物(バクテリア・菌類を除いて)を数え上げたところ、片足の下にセンチュウなら7万5千、両足の下に15〜16万もの有象無象がひしめいていて、この森の足元に複雑な生態系を作り上げていることが明らかになった。この中の動物のかなりの数には名前が無い。熱帯の森でも、昆虫を調べれば、新種や新属がぞろぞろと見つかる。我々は生物の世界をほとんど知らないのだ。
 それでも生物学は成り立つのか?答えはYESだ。知られている限りの生物は単系統なのだ。生命の歴史を内包した遺伝プログラムによる統御という特徴を持つ。生命というシステムは約38億年前に生まれ、連綿と続いてきた。生命の世界は、海水面から上空、海面下に各1万メートル、20kmの厚さだ。これは地球にとってはほんの表層であるが、そのあらゆるところに生命が分布する。星さんの言によれば「多様にして一様、すべての生物は同じ音楽‘the Music of Life’をそれぞれの種に固有の変奏曲として奏でている」のだ。
 生命の誕生から20億年ほどは第一の生物、原核生物の時代だ。現在の細菌がこれにあたる。そして細胞内に核や様々な小部屋を作ってそれぞれに異なる環境を持つという真核生物、第二の生物が誕生する。第三の生物は我々になじみの深い動植物のほとんどが属する多細胞生物だ。そしてヒトは「他の生物と非常に異なる特徴を持つ第四の生物」に位置付けられるという。
 ヒトの特徴は脳だと言われる。ヒトの脳は重量にして体の2%でしかないのに、その酸素消費量は20〜25%にもなり、大量のエネルギーを必要とする燃費の悪い車に例えられる。そしてそれまでの生物と大きく異なることに、その脳を駆使して、遺伝情報とは別に様々な情報を獲得集積して、時間や空間を超えて伝達する(これが教育である)という特殊性を持っている。ヒトに育てられなければヒトは人になれないのだ。80万年前に火を使用、1万年前に農耕を始めて、地球生態系の領域の外で生存する術をもった最初の種となった。
 2007年はヒトの1/2が都市生活者となった記憶すべき年だ。地球上に暮らす種ごとの重量比べでは、ウシが6700万トン、オキアミが5000万トン前後、ヒトは第2位または3位の地位をしめて3000万トンで1日に4万種以上の生物に依存して生活する。これから50年で、ヒトは1万年前から食べてきた量に相当する食糧を食いつくすと言われている。
ヒトの生活を支えるために、既にこの100年で表層土の1/5、農耕地の1/5、森林の1/3を失った。今世紀中に現存する種の1/2は絶滅するという。人口はこの100年で4倍になったが、水の使用は7倍にも膨れ上がった。1gの穀物を作るためには1000gの水が必要となり、世界中の淡水の2/3が農業用水だ。そんな中で、ステーキ1gは100倍の穀物に相当する、車社会のためのバイオ燃料に回っている穀物は、3億3千万人が1年間に食べる量だという。ヒトは地球にびっくりするほど大きな負荷をかけている生物なのだ。
 生命倫理という言葉があるが、その言葉を最初に作ったレンセラ・ポッターは、生命系の維持存続を踏まえた「我々の種としての倫理」という意味でこれを使ったのだという。我々は持続可能な社会などとお題目のように言うが、ヒトが地球の生態系をわがものに使うことはどこまで許されるのか。我々の脳は、非常にローカルにしか働かない。身の回り、自分に関係することには働いても、遠くや目に見えないことは実感できないのだ。我々の作り上げた文化の産物は、本当は良いことなのだろうか。
 圧倒的なデータから展開される星さんの想いは、私たちの胸に迫るものだった。人間のどこかが変わらなければ、種としてのヒトの将来は本当に危ういのだ。これまでにも大繁殖した種の絶滅と主役交代・新しい種の誕生が繰り返されてきた。今、我々はその淵にいる。行動を起こして、他のみんなにも伝えなければならない、もっとこのことについて語りあわねばならない、と参加した誰もが思ったに違いない。
   
今回は全部食べられる「ひと」。顔がそれぞれ少しずつ違うのですよ。


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