敗戦後の満州やシベリアからの引き揚げについては多く語られているが、朝鮮の北部(現北朝鮮)からの引き揚げの情況については殆ど知られていない。
戦争に敗れた途端、日本だった朝鮮の地は外国に一変した。朝鮮北部に住んでいた三〇万人近くの日本人は三八度線の「壁」により足止めされ、伝染病と飢えにさいなまされ、零下二〇度もの厳冬を迎えて、帰国するのを前に多くの人たちが無念の死を遂げた。

本書は、「死滅の村」と呼ばれた富坪から引き揚げる家族を軸に、苛酷極まりない被害の情況を、多くの証言や資料をもとに活写する(写真、図、地図、表など70点)。
敗戦直後、苦境にいる同胞に救いの手を差し伸べられなかった我が国。八〇年経っても、一体の遺骨も収集できない我が国。朝鮮北部の日本人は二度棄てられた。今、引き揚げという事実さえ忘れ去られようとしている。「終戦」の日に戦争は終わったわけではない。その被害者としての情況を生み出したのは何なのか……。
戦後八〇年、私たちが決して忘れてはならない史実が描かれる。


<著者紹介>
大澤 重人(おおざわしげと)
1962年、京都府舞鶴市生まれ。渡来人歴史館(大津市)専門員。
1986年~2019年、毎日新聞社に勤務し、編集制作センター副部長、高知支局長、工程センター室長、エリア編集委員などを務める。現在も、多文化共生や非戦をテーマに取材を続ける。
著書に『心に咲いた花─土佐からの手紙』(第56回高知県出版文化賞)、『泣くのはあした─従軍看護婦、九五歳の歩跡』(第26回高知出版学術賞特別賞)、『咲くや むくげの花─朝鮮少女の想い継いで』[以上、冨山房インターナショナル]