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  第41
2010年6
月18日(金) 18:30~20:30


「放射線について ー研究の歴史ー」

ゲスト:柴田 徳思 氏
(東京大学・高エネルギー加速器研究機構・総合研究大学院大学 名誉教授)今回のご講演者、柴田徳思氏は、この日で3回目の講演となる。今回のテーマは「放射線について -研究の歴史-」である。古典力学から量子力学へ移り変わっていく過程をお話ししてくれた。 

真空状態に電圧をかけると、放電する。当時は簡素な実験器具を使った真空装置で、低度ではあるが、真空状態を作り出していた。その真空装置を使って、放電現象について調べるため、放電管が用いられた。それを使って実験をすると、陰極から出た電子が対極へ届き、電極周辺のガラスが緑色に光ることがわかった。当時は電子の存在がまだわかっていなかったため、陰極から何かが出て、ガラス管を光らせているのだ、と考えられ、この「何か」は「陰極線」と名づけられた。

同時に、クルックス管という実験装置も作られた。これを用いて、内部に十字のかたちをした金属を置くと、陽極側に十字の影ができた。また、磁石を置くと曲がることがわかった。これらのことから、陰極線は、確実に陰極から出ていること、放電管の壁に当って光っていること、直進していること、磁石によって曲げられること、といった性質がわかった。こういった実験を基に、J.J.トムソンは電極や電場を変えて放電現象の実験をして、陰極線についてどんな物質で作られた電極からでも同じ荷電粒子が飛び出ていることを突き止めた。これが「電子」の発見である。
それより少し前に、レントゲンが放電管を黒い紙で覆っているのにもかかわらず、蛍光板が光っていることに気付き、その上に手を重ねると、骨の形が透過して見えることがわかった。これが「X線」である。ベクレルは写真用の乾板の上に十字架の文鎮を置き、重石として実験で使用するウラン化合物を置いた。そのフィルムを現像すると、そこには十字架が写っていた。これがウランから放出されている「放射線」の発見である。

放射性物質で有名なのは、キュリー夫人が発見したラジウムとポロニウムだ。彼女は、夫・ピエール・キュリーが考案した電位計を用いて、大量のピッチブレンド(濃青ウラン鉱)から、ラジウムとポロニウムを発見した。
どんなエネルギーも吸収し、放出する光を黒体輻射というが、その光は温度が上がると、赤から白に色が変化する。この現象についての説明をするため、レイリージーンズの式が立てられた。しかし、これには矛盾点があり、それを補うウィーンの式が立てられた。両方が同時に成り立たなければならず、2つをつないだ式が、プランクの式であった。この式の解釈として、光のエネルギーが量子化されていると考えるのが適切であることがわかった。さらに菊池線と呼ばれる、菊池正士が発見した単結晶からの回折像によって、光が粒子の性質を示し、電子が波動の性質を示していることが明らかとなり、多くの不明な現象について、説明できるようになった。これが量子力学の基となったのである。

発見当時、放射線は1つであると考えられていた。しかし、ラザフォードがウランから出る放射線を垂直の磁場に当てると、進み方に2種類あることがわかった。これがα線とβ線の発見だ。その後、ヴィラールによってγ線が発見された。β線は磁場での曲がる方向、電荷、質量の比が電子と同じ、γ線はX線と同じ性質、α線は不明であったが、電荷と質量の比が水素の半分であることが発見され、さらに発光スペクトルを見ると、なんとヘリウムの原子核であることがわかった。また、その後、中性子も発見された。

様々なことがわかってきた。ところで、この原子という物質は、一体どのような構造をしているのだろう。長岡半太郎、ラザフォードが同じようなモデルを考案したが、決定的な問題があった。2人が考案した、中性子の周りを電子が回っているという構造であったならば、電子は円運動によって電波を放出、徐々に小さくなり、核に落ちてしまうことが予想されたのだ。

 

そこで、大胆な予想を立てたのが、ニールス・ボーアだ。彼は「原子は一定の状態に限って、長くとどまり、荷電粒子であっても、エネルギーの放出や吸収はしない!」と仮説を立てた。電子は波の性質を持っているならば、波長が円周の長さに等しいとき、安定して存在しているはずだ、と仮定をたて、水素を例にとって計算をすると、放出される光の波長がなんと観測されていた水素の発光スペクトルと実測値がぴったり一致したのだ。これによって、ありえない仮説と思われていたことが、真実であると証明されたのであった。
多くの研究者が興味を持ち、数えきれない実験や仮説が立てられてきた放射性物質の研究。しかし、そこには大きな落とし穴がある。放射性物質は確実に人体に影響を及ぼしている。すばらしい発見をしたキュリー夫人も、最後は癌で命を落とした。彼女の衣服を調べると、放置できないほどの放射性物質が付着していた。医療分野などでとても便利に使われているが、そこまでの道のりはなんとも険しい。それでも研究する価値がある。そしてたくさんの人たちに伝えたいことがある。「人体への影響についても、いつかお話できれば。」柴田氏は4回目の講演を構想中である。

 


今回のデザート

一見普通のゼリーに見えますが、添えられている袋の中身を入れると・・・

 

混ぜて食べると、より音が増して楽しく食べられます

プチプチプチプチ!水分に触れると弾けて、激しい音を立てます


会場が飴の弾ける音でいっぱいになりました

 

#サイエンスカフェ

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