周期表のネクタイ、周期表のウィンドブレーカーを着た荻野氏。お茶目である。シリコン(Si)は14番目の元素で、6番目の元素である炭素(C)と縦に同列で存在する。周期表で見て縦に並んでいる元素同士は、性質が似ていると言われるが、シリコンと炭素も似ているところが多い。シリコンも炭素も、ダイヤモンド型の構造(※Photo1)を取って、同じように固い物質を作る。炭素はダイヤ、シリコンは金属光沢の黒く固い物質をつくることができる(※Photo2)。この2つの元素がくっつくと、SiC(カーボランダム)という物質(※Photo3)ができあがり、たいへん固いので、研磨剤などに使われるのだとか。
ダイヤモンドの結晶模型。 |
炭素原子がつくる6員環(右側の模型)が組み合わされている |
純粋なケイ素(Si)の塊 |
カーボランダム(SiC) |
化合物で見ていく。二酸化炭素(CO)と二酸化ケイ素(SiO)、化学式はCとSiが入れ替わった以外同じだが、まったく違う外見の物質となるのだそうだ。二酸化炭素は気体で存在し、水に溶けやすい性質を持っている。最初の実験として、二酸化炭素を、水が1/3ほど入ったペットボトルに注入し、激しく振ると、二酸化炭素はあっというまに水に溶け込んで、ペットボトルが凹む、という現象を見せてくださった。
二酸化炭素は見えずとも気体で存在しているのだ。二酸化ケイ素は、なんと固体で存在する。石英とも呼ばれる、いわゆる水晶だ。(※Photo4)同じような化学式にもかかわらず、こんなにも違いがある。「その違いを探すことが、化学者の仕事のひとつなのです」と荻野氏は語る。
シリコンを99.9…%と、9が12個以上も並ぶほど純粋な状態にし、ホウ素やリンなどの物質をほんの少し乗せると、携帯などに内蔵されるシリコンデバイスとなる。では、シリコーンは?最近高層ビルがガラス張りで建てられているのをよく見かけるが、ガラスが落ちてこないものかと思ったことはないだろうか。
なんと、そのガラスを固定させている物質こそが、シリコーンなのだそうだ。柔軟性に富み、熱が加わってもどんなに寒くても、変質することがほとんどないのだそうだ。パテで固定した窓ガラスがすべて落下するような大地震の現場でも、シリコーンで固定している窓ガラスは、はずれて落下することがないことが実証されて、ガラス張りの建物や高層ビルの外側のガラスは、シリコーンで固定することになったという。
1940年代、ゼネラル・エレクトリック社のエンジニア、ユージーン・G・ロコーは、ジクロロジメチルシランの合成実験中に偶然一晩放置したところ、固まってしまっていたのに気がついた。湿気を含んでポリマー化したのだ。その重要性に気がついた彼は、すぐに上司のところに持ち込んだが、相手にされなかったという。その物質は世界を変える物質、シリコーンだったのだ。
シリコーンは、哺乳瓶の乳首、複写機のロール、キーボード、テレビなどのリモコンのボタン、バーコードの裏のシール部分にも使われている。最近は、冷凍庫から電子レンジにまで対応するという調理用具にも使われる。私たちが普段、シリコンと呼び表すものが、本当はシリコーンと呼ぶべきものなのだ。「フレキシブル・防水性・熱に安定」な性質は、理想の絶縁体ともなる。また無菌状態で作ることができるので、医療品のチューブにも使われている。まさに世界を変えた物質なのである。
荻野氏は、いたずらっ子のような笑顔で、聴衆を巻き込んで解説なさり、そしてたくさんの模型を見せながら、難しい内容も堅苦しくならないよう、センスのあるジョークを織り込んで楽しくお話してくださった。目に見えないものを立体化した模型や標本類もとてもめずらしく、参加者の方々は、そのひとつひとつを手にとって丁寧に見るという貴重な体験に、驚きの声や感動の声を挙げていた。
(左から) |
シリコーンラバーに性質が近づいた粘り気のあるシリコーンオイル |
シリコーンラバー |
今回のデザートは・・・
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#サイエンスカフェ