生物学的な観点からみていく。依存の謎を解くカギは脳内にあった。麻薬を乱用している場合、脳内ドーパミン放出量が異常に多い。ラットの実験では、コカインを投与するとドーパミン量は通常状態の4倍、中でも自らレバーを押して自己投与した場合は6〜7倍にもなるとか。これは麻薬が快感を引き起こす報酬系を刺激し、ドーパミンが放出されるからだそうだ。報酬系とは「おいしい熟れた実を覚えると、
次に青い実の中からおいしいと予測できた赤い実を選び出して手に入れようとする」といった生存に不可欠な脳のシステムである。つまり、薬物投与による快感からその刺激を覚え、脳がまたそれを欲しがらせて依存状態が作られるのだ。
心理学的にみると、衝動性がまたひとつのカギとなる。衝動性とは、たとえば「今、5千円もらうのと、半年後1万円もらうのなら、どちらがよいか」と質問した場合、「半年も待てないから、今5千円」と答えたときの心理状態をいう。そういった「今ほしい」「我慢ができない」という衝動性を伴った心理が働いて、興味本位で1度やったが、「あの快感をもう1度味わいたい」「あと1度だけなら大丈夫」と、我慢できなくなり、何度も手を出し、いつの間にか中毒になってしまうのだそうだ。
では最後に、社会的観点からみる。麻薬中毒者の家庭では、中毒者本人の状況に一喜一憂したり、借金を尻拭いしたり、もっと大きい問題を起こすのではないかと怖くなったり、禁断症状を起こした際の情緒不安定な様子が怖くて言いなりになったりといったことが起こる場合がある。親子の場合、親は子が浮かれているときには冷静に、落ち込んでいるときは陽気に励ますといった、子とは逆のテンションでいるほうがよい。
しかし、同じテンションでいる場合、前述したような心理状態となり、毅然とした態度を取れず、止めることができない。子が麻薬をやっている家の親は、たいがい世話焼きで、1人がさみしいという親が多いのだとか。「子どもは多少ほっといたほうがよいのです。」と、廣中氏。
孤独な人間ほど、麻薬中毒になっていく。友人のふりをして薬が忍び寄る。一度中毒になってしまった人を「刑務所へ行け!」と、また孤独に追いやるのではなく、立ち直った仲間たちと話し合うことができる場を作るべきだと廣中氏は言う。「麻薬は悪いことばかりではない。薬理効果がとても高く、医療では、なくてはならない薬物。両方の知識を広めていかなければ、本当の恐ろしさも解決も見えてこない。」と話す廣中氏は、麻薬を悪者扱い一辺倒に決めつけず、薬と人間の関係をよく知って間違った使い方を決してしないよう、また問題を社会の外へ追いやって締め出してしまわないよう、科学者として社会に向かって呼びかけているようだった。
今回のデザートは・・・
形が薬のカプセルに見える、「カフェパン」。上にはこれまた薬にそっくりなジェリービーンズとラムネ。中味はコーヒー味の餡。妖しく見えても、妖しくないので大丈夫です。
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