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第34回
2009年10月16日(金) 18:30〜20:30
「地球の生命と重力
 

ゲスト:
お茶の水大学教授 最上 善広氏

 

「宇宙生物学」とは何だろう。「宇宙の生物」を扱うということならいわゆるエイリアンについての学問であり、「宇宙で生物学」となれば、宇宙空間での生物の振る舞いを研究し、生物の実態に迫ろうとする学問なのだそうだ。今回、最上善広氏(お茶の水女子大学教授)がお話くださった「地球の生命と重力」は、「宇宙で生物学」のことになる。
1990年、「微少重力環境下でのアマガエルの行動」というタイトルで研究を行うべく、宇宙ステーション「ミール」にアマガエルが持ち込まれた。無重力中にカエルを放すと、彼らが経験している自由落下、両手足を突っ張るダイビング姿勢をとる様子が観察された。さらに、首を90度上にあげたままの様子が見られた。これは、カエルが胃内容物を吐き出すときに見られる姿勢だそうだ。エサを食べない個体もいて、乗り物酔いならぬ宇宙酔いをしているのではないか、という仮定が導かれた。

強力な磁石と磁石を近づけると、磁場ができあがる。その間に物体、たとえばイチゴやトマトなどを置くと、磁石の間でふわふわと浮遊する。一種の無重力状態をつくることができるわけだ。そこにアマガエルを置くと、ダイビング姿勢を取るが、上下はわかっている様子が窺われる。つまり本当の無重力では、上下がわからず、くるくる回りながら、宇宙酔いをするが、人工的に作りだした地球上での無重力では、上下がわかるため、宇宙酔いをすることはない。つまりカエルは重力を感知する能力があり、それによって上下を区別しているということだ。

 

植物の場合はどうか。植木鉢を傾けると、葉は上向きに、根は下向きに伸びていく、屈性反応が見られる。何が重力を感知しているのか。様々な実験が行われた結果、デンプンの粒が重力を判断しているのでは、という仮説が立てられた。生物のほとんどは、重力を感じて、それに応答して生きているのだ。
無重力下での現象を見たくとも、そうそう宇宙には行けない。では無重力はどうにかして作れないものだろうか。以前行われていたのは、使わなくなった炭鉱に物体を自由落下させる、という方法だ。この方法を主に使用していたが、数秒しか無重力状態を保つことができなかった。より長い時間を得るために考えられた方法が、「パラボリックフライト」だ。飛行機に乗って急上昇し、ある高度で自由落下すると、機内に20秒間の無重力状態を作り出すことができる。1回のフライトで、20秒の無重力を繰返し作り出しながら実験を行う方法で、最上氏もお茶大の女子学生と共に参加している。
そこでキイロショウジョウバエを用いた実験を行った。この種は、飼育されている試験管内では、壁伝いに天井へ向い、到達すると飛び降りるように飛ぶ。では無重力下ではどうか。2通りの反応が見られた。1つは様々な方向にめちゃくちゃに飛ぶ反応。もう1つは羽ばたきをせずに浮いて移動する反応。ショウジョウバエも重力に反応していた。ではいったいどこで感知しているのか。昆虫の感覚器官は触覚に集中している。重力を感知する感覚細胞は、触覚の根元にあるようだ。

最上氏の話題は尽きない。JAXAの宇宙実験のアドバイザーとしても活躍されていること、お茶の水女子大学の舞踊学科と連携して、無重力下で天女の舞を実現したこと…。普段無意識に囚われている常識を離れて、物事を捉えようとする姿勢が、最上氏の原点にある。多くの動画も見せてくださり、そのたびに驚いたり、どよめいたり、笑い声があがったり、と参加者からたくさんのリアクションが見られた。もしかするとそんな光景も、最上氏の実験だったのかもしれない…と思ってしまうほど、好奇心やアイディア、実行力に溢れた方だった。

 

<余談> 最上氏が後で教えてくださったことだが、ハトが一斉に飛び立つときの音は、どこから出ているかご存じだろうか。・・・・正解は、飛び立つとき、ハトは思い切り翼を振り上げる。頭上で左右の翼をたたきつけることで、あの「ばさっ」という音が出る。左右の翼を振り下ろすとき、頭上は陰圧となり、体を吸い上げ、飛び立つ助けになるのだとか。思わず「へー!!!」という声が出てしまった。もちろん最上氏は、それを聞いて、ふふふ、と笑っていた。



今回のデザートは・・・

「重力」と聞いて思いついたのは、「ニュートンのりんご」。ということで、今回はマフィンに、りんごを混ぜた生クリームを添えました。あっさりとした味で、好評でした。もしかしたらフォリオ・秋限定メニューに加わるかも・・・?

 

 

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