第33回 9月18日(金) 18:30〜20:30 「細胞が示す老化の足跡」 ゲスト: |
今回は、女性なら(近頃は男性も?)とても気になるテーマであったようで、会場が参加者でいっぱいになった。そのテーマとは「細胞が示す老化の足跡」だ。確かに気になる。お話してくださったのは、加治和彦氏(元静岡県立大学教授)だ。
我々の見知っている生物の多くは、ひとつの細胞(単細胞)がいくつも集まって生物が成り立っている多細胞生物だ。多細胞生物の代表・ヒトの細胞は、全部で60兆個にもなる。この数は、銀河に存在する星の数、数千億個よりはるかに多いのだ。まったく想像できない数ということになる。さまざまな形態、さまざまな機能を持つよう分化したヒトの細胞60兆個をつないでいるのが、細胞外基質なのである。細部を見ていくと、キリがないほどに、多数の細胞が複雑に構成されていることがわかる。
その細胞と細胞が会話しているというのだ。細胞間分子言語と呼ばれ、ホルモンもそのひとつだ。細胞同士、分泌物を使って会話をしているのだそうだ。さらにおもしろいことに、分子言語がないと、細胞数がどんどん減少してしまう。会話ができなくなると、細胞が死んでいくのだ。ゾウリムシの場合でも、少数と集団とで比較すると、集団で存在する場合のほうが、個体数が増えていく傾向にある。ゾウリムシのような単細胞生物にも、分子言語が存在することがわかっている。
なぜ細胞は老化していくのか。細胞は分裂を繰り返し、成長し、新しいものに生まれ変わっていく。しかし、環状DNAを持つバクテリアは無限に増殖していくのに対し、線状DNAを持つ細胞はある一定回数分裂すると、それ以上は分裂できなくなる。なぜなら、細胞分裂のためにDNAが複製されるたびに、染色体の末端が脱落していくのだが、それには限りがあるからだ。これはヘイフリックの限界仮説と呼ばれ、脱落していくDNA末端の構造をテロメアと呼ぶ。ヒトのテロメアは(TTAGGG)配列が1,200回ほど繰り返されていて、その繰り返し配列が回数券のように並び、細胞老化に伴い、テロメアが短縮していくことが確認されている。つまり、進化の過程において、原核生物は無限増殖を、真核生物は寿命のある方法を、それぞれ選んだということになる。
この現象は必ず体内でも起こっているはずだ。そこである特定の人を対象に、若い時期と時間を追って老人となるまで、順次、線維芽細胞をとりだして培養して比較すると、その分裂回数が違うことが確認されたのだそうだ。そしてテロメアの長さも、加齢に従って短縮化する傾向がみられた。DNAのテロメア構造は、細胞老化と深い関わりがあることが示されているが、細胞老化の原因はテロメアのみなのか、はたして他にも何かあるのか、さまざまな研究がつづけられているものの決着はついていない。なぜ寿命のある方法を選択したのか、加治氏の話は未だ解明されていない先の世界へと広がる。
この細胞老化についての研究は、その対象が一生を全うするまで付き合わねばならず、長時間を必要とするため、解明までに時間がかかる。サンプルの採取も難しい。ヒトの老化現象は最大のテーマであるのにも関わらず、困難がつきまとう。しかし、このテーマが解明されれば、ヒトは不老不死を手に入れることになるのだろうか・・・。フロアからは、テロメアを再生させるという酵素の活用についての質問があったが、細胞が死ななくなることと細胞ががん化することとの関係など、単純な話ではなさそうだ。
奇しくも今年のノーベル医学生理学賞はテロメアを合成する酵素であるテロメラーゼの研究に与えられた。細胞の老化という、人体の不思議な現象に立ち向かう加治氏は、活き活きとして、若々しさにあふれていた。
今回のデザートは・・・
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