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第49
218日(金) 18:30~20:30


南海トラフ巨大地震への備え


ゲスト:金田義行 氏
(海洋研究開発機構 地震津波・防災研究プロジェクトリーダー)

2011年3月11日に東北・関東に発生した地震は未曾有の大震災となり、日本だけでなく世界中に衝撃が走った。

M9.0という激甚な地震は巨大な津波を引き起こし、その爪痕は、現場に立つ誰もがみな言葉を失ってしまうむごさだ。地震を防ぐことは難しくても、起こることを予測し、何らかの対応をとることはできないものだろうか。

その第一人者である金田義行氏(海洋研究開発機構 地震津波・防災研究プロジェクトリーダー)が、「南海トラフ巨大地震への備え」というテーマでお話しくださったのは、2月18日だった。

巨大地震は確かに世界各地で起こっている。チリ、ハイチ、四川省、スマトラの地震は記憶に新しいのではないだろうか。しかし日本では阪神・淡路、中越、十勝沖など、狭い島国の中で、記憶にある中でも多数起こっている。江戸時代(1707年)に大地震が発生、富士山が噴火したという記録もあり、世界的にも、きわめて地震が多い国なのである。

地震は起こる原因によって、様々な種類があるが、今回は主に海溝型地震に焦点を当ててお話があった。海溝型地震とは、海洋プレートが大陸プレートに沈み込もうとして、押し込まれた大陸プレートが跳ね上がって起こる地震のことをいう。沈み込む際にエネルギーが貯金され、ある場所である閾値を超えると(「貯金箱」がいっぱいになると)、地震が起こる。エネルギーは一旦解放されるが、また徐々に貯まることを繰り返す。エネルギーが貯まっているため、この型はマグニチュードが高くなることが多く、大地震につながりやすい。

今回のために、左右色の違うめがねをかけると立体的に見える海底地形図を2枚お持ちくださった。「まずはそれらを見て、南海トラフの海底地形を想像してほしい」と金田さん。厄介なことに、このプレートは静岡から九州まで断続的につながり、くねくねと曲がったり、海底の岩山に阻まれたり、複雑な構造をしている。どこにどうプレートがあるのかがわからなければ、地震発生箇所もわからない。海底地形およびプレートの調査が必要とされてきたのはそのためだ。

では、発生前に何とか予測ができないものだろうか。南海トラフで調査をすると、深いところでは、微小な地震やゆっくりとプレートが壊れていく地震が頻繁に起こっていることがわかってきた。それが大きな地震とどう関わりがあるのか。その研究が目下進行中である。
震源の多くは海であるため、海底にセンサーを設置し、水圧やGPSで位置などを観測して海の変化を調べようとしている。20箇所に設置する予定だが、現在は静岡沖・和歌山沖に合わせて8箇所設置されている。それらの変化を感知して、地震や津波の発生の10秒でも先に予知することができれば、巨大地震からも身を守れる。津波が発生することがわかれば、陸に到達するまで10分~20分かかることが多いので、その間に逃げられる。減災のためには、かなり重要な「10秒」といえる。

 

地震が起こったらどうなるか、津波がきたらどうなるか。現在のデータを解析し、ある街を想定して、地形・市街図をもとに被害状況をシミュレーションすることができる。スパコンで作成したシミュレーションを見せていただいた。それによると南海トラフで地震が起これば、土地は沈下し、その歪みで防潮堤は壊れる。津波は漁港の船やコンテナ、沿岸域の家屋、車などすべてを巻き込んで、水の塊となって町を直撃する。そのうえ第二波が襲うときには、その船や車がさらに押し寄せる。一波目で壊された建物の壁の瓦礫が、二波目に別の建物を壊す。そう、まさに、そのまま今回の大地震で恐ろしい現実となった光景である。

「東海、東南海地震は周期的に起こっている地震であるため、地震や津波の発生時期を予測し、被害を予測し、その想定される被害の中でなんとか実際に役立つ対策を考えることこそが、今、すべきことだと思っている。また、沿岸域で生活している方々、特に若い人が知識を持ってくれれば、将来、もしものときにいちばん力を発揮してくれる層になる。ぜひ防災教育に力を入れていきたい。ただ危険だというのではなく、メカニズムも理解してもらったうえでの防災が必要だ」と、金田さんは終始熱く語った。
今回の東日本大震災は、このサイエンスカフェの3週間後に起こった。金田さんのサイエンスカフェに参加した私たちは、報道に息を飲んだ。地震や津波を防ぐことはできなくとも、人命を救うこと、被害を最小限に抑えることが、どれだけ大切かということを目の当たりにした。金田さんも、きっと新たな防災のための研究に勇気を奮い立たせていらっしゃると思う。どうか日本のために研究を着実にすすめてほしいと切に切に願う。そして被災地の復興を心からお祈りします。


一見アイスクリームですが、食べてみると不思議な食感…。
実はお米で作ったアイスクリームなのです!そのお米も非常食のアルファ米を使いました。これまた非常食の乾パンも添えて、「コメクリーム」を召し上がれ。
今回のデザート


【参加者からの言葉

 

 

#サイエンスカフェ

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