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第39回
2010年3月19日(金) 18:30〜20:30

「宇宙は無限にあるのか?ーマルチバースと人間原理」

 

ゲスト:佐藤勝彦 氏
(東京大学数物連携宇宙研究機構特任教授 明星大学客員教授)

日本が世界に誇るインフレーション宇宙論の提唱者、佐藤勝彦氏の登場とあって、60名を超える方々が参加されて会場は熱気にあふれた。さて、「超のつくほどの賢人たちが頭脳を絞って打ち立てる理論を、素人がほんの40~50分お話を伺っただけで分かるはずもなし。かけらほどでも異才を拝見できれば」とお待ちすると、登場なさったのは本当に物静かな、こちらの半端な態度を恥じ入るほど誠意溢れるお話しぶりのかたであった

ゴーギャンの有名な『われら何処より来りしや、われら何者なるや、われら何処に去らんとするや』の絵にあるように、「私たちの住むこの世界(宇宙)はどんな世界なのだろうか?この世界の中で自分という存在は、どのような位置にいるのだろうか?という人類の歴史が始まったころから問い続けられてきた問題に対して、今や科学の言葉で答えることができる時代となった」と佐藤氏は語る。

出来得る限りの果ての宇宙を観測することで、宇宙の開闢直後を実測でき、そこに宇宙構築の種となるゆらぎの証拠が見て取れる。現在の宇宙構造はこの「ゆらぎ」からつくられたのだという。佐藤氏の言によれば、「現代物理学の誕生から100年足らずで、137億年前の宇宙の誕生から多様で豊かな構造を持つ現在まで、およその宇宙の進化像を描くことが可能になり、人間は、地球科学、生物学、人類学など諸科学の成果とあわせて、物質世界の進化、宇宙誌の中で自らの位置を知った」のだ。

さらに最新の宇宙論は、宇宙が無数に創られることを予言している。インフレーション理論や超ひも理論等からマルチバース(宇宙の多重発生)が予言されるという。ただし相互に因果関係を持たないため、原理的に我々の宇宙以外に他の宇宙が存在することを、観測的に示すことはできないのだ。宇宙を満たす物質の96%は正体不明のものであることが明らかになっており、我々の体や輝く星を構成する物質はわずか4%、銀河や銀河団の中を満たしている正体不明の暗黒物質は20%余りで、さらに宇宙全体に一様に広がった正体不明の暗黒エネルギーが70%を超えて存在するという。暗黒エネルギーは真空エネルギーとも考えられていたが、時間的・空間的に一様ではない可能性があり、このエネルギー密度を宇宙定数と考えて、様々な定数を持つ無限の宇宙が考えられる。まるで仏教の曼荼羅の世界だ。

こうした理論を重ねたうえで、我々のような知的生命体が認識しなければ、宇宙はそもそも存在しないも同然ということに思い当たる。認識主体が生まれる宇宙のみ存在が認識され、他の宇宙は認識されない。現在の我々の宇宙の法則、物理定数は、我々が生まれるようにデザインされているように見える。様々な計算により、想定され得る10次元を超える宇宙の中で、空間3次元/時間1次元の我々の世界で、素粒子は確かに安定するという。この宇宙を規定する様々な力の強さが少しでも異なると我々(生命)は生まれないのだ。逆に人類が生存しているという事実から、極々限られた宇宙の初期条件、進化の条件が決まる。これが人間原理(人類原理、知的生命体原理)だ。しかし佐藤氏は科学的態度についても触れて「人間原理は最終的な究極の理論では避けられないが、乱用すると科学的研究の放棄になる」とも警告する。

佐藤氏は、多くの質問も正面から受け止めて最後まで誠実に対応下さった。頂いたアンケートでも皆さんが「時間がもっとあれば」「もっと先を説明してほしい」と感じたことが読み取れた。確かに難しく、一般の我々は完全に理解できたとは言えないだろう。しかし佐藤氏が繰り広げる世界は、聞くものの意識の底の何かを強くゆさぶって、我々は深い感動を覚えずにはいられない。サイエンスカフェも終わって帰り際、参加者の「ひらめきと言ったものをどう考えておられますか」の質問に、佐藤氏は「私は直感というものを大事に思っています」と答えておられた。厳密に、あらゆる知力を総動員して科学的な検証を進めていくその先に、ある時、氏の内なる宇宙(脳)に起こるゆらぎが核を結ぶのだろう。(会場のフォリオ店長が工夫を凝らした、インフレーション型コーヒーゼリーもなかなか好評でした。)


今回のデザートは・・・
宇宙をイメージして星型のラムネや金平糖を散らした「宇宙のコーヒーゼリー」。二層になっていて、下の層は白いですが、なんとコーヒー味!なんともカフェっぽいデザートとなりました。

#サイエンスカフェ

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