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第27回

2009年2月20日(金) 18:30~20:30


「小さな実験、大きな成果」

 

ゲスト:
放送大学・東北大学名誉教授 荻野 博氏

今回のテーマは荻野博氏(放送大学・東北大学名誉教授)による「小さな化学実験、大きな成果」だ。実験が「小さい」というのは、やや聞きなれない印象があるが、実際に見せてくださるとのこと。「百聞は一見に如かず」だ。

小さな化学実験=マイクロスケールケミストリー(MC)は、少ない試薬で経済的かつエコロジカルに実験をしよう、という実験方法だ。化学実験では試薬、廃液の処理、実験器具(特に消耗品)にかなりの金額と時間がかかり、廃液は一歩間違えると環境汚染につながることもあるという。MCは実験の規模を小さくすることによって、試薬の量が極端に少なくなる。それに伴って使用する試薬の調製にかかる時間、廃液・有毒ガスの発生量、処理時間もずいぶんと減る。経済的なうえに、環境にもやさしい。

今回はいつものスクリーンの前に、手のひらに包み込めるほどの小さな実験器具がぎっしりと並んでいた。それらを使って実験をしてくださるというわけだ。その小さな器具は荻野氏手作りのものが多く、日本では茅誠司氏、海外ではオーベンドラウフ氏が発案・製作していたそうだ。

最初の実験は目で見る実験。モルボックスという真ん中にしきりのあるアクリルケースに、着色した水(赤・緑)を流し込む。同量注ぎ、しきりを取り外すと、液体が混ざる…と思うが、これが不思議と混ざらない。上半分に赤色が、下半分に緑色がきれいに分離しているのだ。

実は赤色の液体はぬるま湯、緑色の液体は冷たい水、つまり高密度の水が下へ、低密度のお湯が上へ移動したのが目にもはっきりと示される。

主に使用する器具は小さな試験管、注射器、点滴のコック、チャッカマン、線香、待ち針、電池1本、石鹸水などだ。発生させた水素のみを注意深く試験管に集め、火をつけると、ポンという音とともに試験管の中に水滴ができる。マンガン乾電池の中のマンガンと、過酸化水素を混ぜると酸素が発生し、試験管に溜め、火のついた線香を入れると、明るく燃える。

水を水素と酸素に電気分解し、発生した気体を石鹸水に吹き込んで泡に封じ込め、火を近づけると「パン!」と激しい音がする。これは爆鳴気と呼ばれ、スペースシャトルが発射するときの燃料にも使われているのだとか。
ドイツの有名な化学者・リービッヒは「化学には実験が不可欠である」と言った。だが、現代はどうか。危険な薬品の使用、実験器具破損による怪我などが取りざたされ、ろくに実験をすることができない。「MCはそういった危険性が少ない。そのうえ、今までは本当に危険で行えなかった実験も、量を少なくすることによって、危険性が和らぎ、実験できるようになった。」とうれしそうに荻野氏は語った。実際、海外ではすでに取り入れられていて、活発に行われているそうだ。

ホイップクリーム製造機を使って、二酸化炭素を布に急噴射すると、ドライアイスが発生した。そのドライアイスをフィルムケースに入れ、少しするとふたが飛ぶ。また昔は縁日でよく見かけたアセチレンランプの素となるアセチレンの発生実験。過マンガン酸カリと濃塩酸を混ぜるとヨウ素ができ、濾紙に向けて放出すると、

焦げたように茶色く文字が書けるなどなど…。次から次と実験が繰り広げられ、参加者の方々は前に出てきて、まるで手品でも見ているかのように、食い入るようにみつめていた。
MCは本当に小規模なので、遠くの人には見えないという欠点がある。けれども、実験を「行う」と「行わない」では、興味の持ち方が全然違う。もちろん入念な配慮も払われている。「実験は正しく行うことで、本当におもしろいものなんですよ。」小さな実験器具たちに囲まれ、次は何の実験をしようかと目を輝かせ、わくわくしている荻野氏は、まるでいたずら好きの少年のようだった。

 

今回のデザートは・・・
バナナと牛乳をミキサーにかけ、小さな実験でできあがった、「チョコバナナシェイク」シナモンスティックでかき混ぜながら、お召し上がりください。

今回のデザート


 


【参加者からの言葉

 

 

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